2018実践研究報告集NO.1720
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5.茅場再生プロジェクト5.1茅育成の情報収集茅葺き補修プロジェクトが一段落した2月からは,茅場再生プロジェクトに着手した。まず,文献で茅に関する基本情報を確認した後,阿蘇で茅場づくりを実践している瀬井純雄氏(阿蘇花野協会)にヒアリングを行なった。茅(主にススキ)は根によって越冬する多年生植物で,植物遷移における草原の最終形態である。したがって,茅場の多くは長年にわたって維持されるものであり,新たに植付けるようなことはあまりないという。阿蘇も植物遷移が進みススキの草原となった場所で,例年,草刈り,野焼きを行い維持管理され,茅の植付けはほとんど行われていない。阿蘇花野協会は,阿蘇の草原の再生に取り組んでいる団体で,管理されず荒地となった土地の樹木・雑草を除去し,草刈り・野焼きなどの営みを復活させている。数年それを繰り返すとススキが増殖し,次第に草原となっていった。そのススキの活用法として茅葺き屋根に使うことが検討され,阿蘇茅葺き性別⼈数男28⼥12計40分類⼈数地域住⺠8⼀般参加者(うち⼦供)13(2)⼤学関係者9茅葺職⼈4スタッフ6計40図4-2茅束作りの作業図4-3ワークショップ参加者の内訳工房の植田氏らと連携して,草原再生のプロセスに茅材の生産が組み込まれるようになった。われわれのプロジェクトでは植付けによる茅場育成を行うことにしたが,瀬井氏によれば,茅の植付けには,穂からとった種をポット・鉢で育て敷地に植える方法と,自生している茅の株分けをして移植する方法とがあるという。時期については,移植の場合には茅の生育が止む冬場に行うのがよいということだった。また,野焼きをすることは難しく危険を伴うため,刈り取りのみによる維持管理を勧められた。5.2敷地の選定敷地とした分田棚田は,川に迫る急斜面に築かれているため,細長い田が急勾配に雛壇状に並んでいる。その最上部の棚田が,機械が入らず,数年来,耕作放棄地となってしまっていた。所有者の了解が得られたので,その土地を借りて茅の育成を行うことになった。棚田の耕作放棄地には樹木が植えられているものもあるが,景観を損なうことにつながって好ましくないとされる。それにくらべ,茅はあまりダメージにはならない。とくに今回の敷地は連続する棚田群の最上部で樹林との境にあり,ここが茅畑となることは景観上も悪くなく,さらに,この地区の茅葺き民家保全活動へのメッセージにもなる。5.3現場作業茅場探し(2018年4月〜5月):地域関係者に茅場についてヒアリングを行なった後,それにもとづいて新川田篭地区内の茅の生息地を探してまわった。すると,棚田の耕作放棄地山間部の道沿いに所々ススキが確認された。さらに,山側のスーパー林道を入った先に数カ所,ススキの群生地を発見した。それらは2〜3mの高さがあり,屋根材として使用できる可能性が高い(図5-1)。ただ,各集落からのアクセスが悪く,管理もされていない状況で,茅場としての条件はあまり良くない。また,杉の幼木と混じってススキが生えている場所もあり,植物遷移の状況が視覚的に確認された(図5-2)。ただし,それらは丈が低く屋根材には適さない。敷地の整備(2018年5月〜):ススキの生育には,ある程度,乾燥した土壌のほうが良いとされ,阿蘇の火山土壌は水ハケがよく,適している。今回は旧棚田を使うため,水ハケが良くないことが予想されるが,最上部に位置し,数年にわたって稲作で水が張られることはなかったので,そのままの土壌を使うことにした。5月後半に,敷地の草刈りを行なった(図5-3)。その周辺の雑草が生い茂った部分も合わせて刈り,景観を回復させた。その際,自生しているススキも確認されたが,疎らに生えている状況で,茎も伸びておらず,使えるようなものではなかった。株分け・植付け(2018年11月〜):新川田篭地区内で確認されたススキの生息地の中から,屋根材に適した場所を選び,ススキの移植を行う。時期はススキの成長が止まる冬場がよいとされていることから,11月以降に開始する。準備や試行を重ねた後,参加型の体験ワークショップを開催する予定である。図5-12mほどのススキの群生地図5-2杉の幼木とススキ図5-3敷地での草刈作業

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