2017実践研究報告集NO.1618
10/10

5.3空きストックの利活⽤に向けた実践的知⾒(1)利活⽤⽅法を発掘する複数のチャネルの存在地域の多様なニーズに即した利活⽤⽅法を発掘するためには、各社会実験の契機のように、協議会などの単⼀チャネルだけでなく、サロンと併設した常設の相談窓⼝や訪問調査など複数のチャネルを⽤意する必要がある⼩⾼駅周辺で事業の新規や再開が多い傾向がみられ,⽴地特性と新規・再開は、今後の重要なテーマだ。(2)空き家のストック化の重要性⼩⾼は震災前に「歴史の町」といわれてきた。しかし蔵や店舗など多くの歴史的建造物が、震災と⻑期避難の間の劣化が原因で環境省の公費解体となった公費修理や訪問調査など、複数のチャネルを⽤意する必要がある。(2)復興の段階に応じた活⽤⼿法の選択5.2で整理したように、空きストックの可能性は復興の段階に応じて変化する。従って、本対象地のようなストックが残存した状態からの災害復興や、居住状況が急激に変化する地域にあっては、まちなか全体の動向を踏まえた活⽤⼿法の選択が重要である。間の劣化が原因で環境省の公費解体となった。公費修理は極めて限定的だった。解体申請の期限の設定は、将来の活⽤が⾒えにくい状況にある被災者を解体に急がせた。原発被災は⻑期避難を強いられる。ようやく帰還しても⼩⾼の町並みが激変していては、再度の喪失感を味合うことになるのではなかろうか。歴史的建造物だけではない。⼩⾼の敷地の利⽤構成には秩序があって、まちな「避難指⽰解除準備期」のような初期段階では、悉皆調査による空きストックの全容把握が理想的である。⼀⽅で、初期段階の暫定的活⽤が後期での本設再開へと展開しており、少数でも活⽤の実現によって後期の復興に⼤きく寄与する可能性もある。従って、⼈的制約などで悉皆的な全容把握と活⽤実践の両⽴が困難ならば、既存の集まりを利⽤した探索的調査と実現可能な範囲でのかの町並みを構成していた。急激な解体建替は、そうした⾵景を喪失させる。空きストックには、残すこと⾃体の存在価値がある。建替促進の⽅策が、保存活⽤のそれよりも強い状態は被災時に限らないが、改める必要がある。(3)⼆地点居住の実現に向けて原発被災地域では帰還を決定できない状態が続く帰の集まりを利⽤した探索的調査と、実現可能な範囲での実⾏が有効であろう[b]。「準備宿泊期」のように滞在⼈⼝の増加段階では、⽇中に⼈々が集える「地域住⺠の集いの場」が⼤きな活⽤可能性となる。後の空きストック活⽤へ展開した事例aでは、⾏政による広範な使途に対応した地域活動助成を資⾦源としていた。多くの空きストックを活⽤するには、原発被災地域では帰還を決定できない状態が続く。帰還できなくても、市内や近隣⾃治体で新居を構えた⽅や農地・宅地を売却せずに所有したままの⽅、墓地はそのままにしている⽅も多い。また,帰還者には,近い将来、⾃⽴した⽣活の継続が困難になることが予想される60-80代の夫婦世帯も散⾒される。通いではなく居住を選択肢としている外部⽀援者もいる。居住状況が回復に向かう変曲点において、柔軟性のある財政的⽀援が有効であろう。居住や⼀時滞在を前提とした中⻑期的な⽀援を望む⽀援者が⼀定程度出現するため、⾏政や地域の復興組織は、住⺠の帰還⽀援に加えて、これら⽀援者への賃借可能な空きストックの情報提供が重要である。本実践では,避難先と避難元の⼆地点居住や、外部⽀援者が復興の仕事に携わりながら宿泊できる場所作りを検討したが、実現できていない。福祉居住の知⾒や、マーケット調査も含む情報収集能⼒、移動を⽀える地域の⾜、⼤規模な改修⼯事の資⾦などが必要だ。今後のまちの定常的な姿を考えると、昼間は集落で農作業をして、夜は集まって福祉系サービスを得ながら寝泊まりするなど新たな暮らし⽅を実現する必要性は⾮常に⾼いだろう<研究主査>「居住再開期」のように居住⼈⼝増加の段階では、空きストックが徐々に顕在化するため、課題として認知されるが、⾃発的な活⽤の余⼒がある住⺠は既に活⽤に着⼿しており、住⺠による新たな活⽤は⽣じなかった。対して、外部⽀援者により従前とは異なる活⽤がなされたことから、住⺠以外の主体にも⽀援の⽬を向ける必要がある。その際には、本報告も⼀つの事例だが、担い⼿のたな暮らし⽅を実現する必要性は⾮常に⾼いだろう。・⿊本剛史⿅島建設株式会社(*1東京⼤学⼤学院⼯学研究科修⼠課程)*1:申請時の所属<研究委員>・川⽥さくら厚⽣労働省・太⽥慈乃東京都庁意思を尊重した財政⽀援は⾮常に重要であった[b,D]。被災地では、仮設住宅での活動や機能を移設する形で空きストックを活⽤する可能性がある。そこで仮設住宅での活動内容や課題を予め調査することで、公営住宅の問題と対処が想定でき、効果的な活⽤ができよう[B]。東京都庁・益⾢明伸東京⼤学⼤学院⼯学系研究科博⼠課程・窪⽥亜⽮東京⼤学⼤学院⼯学系研究科特任教授*当実践研究報告集普及版は『住総研研究論⽂集・実践研究報告集』No.44の抜粋版です。6課題と展望(1)⽴地特性や現地再開事業所と空きストック活⽤本報告は空きストックの活⽤を対象としたので多くの事例数がなく、⽴地特性が利活⽤に及ぼす影響を把握できなかった。また、⽔すら開通していない時期から再開した理容室を筆頭として、震災前から営業していた事業所の現地再開状況と利活⽤の関係も調査できなかった。住総研 実践研究報告集 No.44, 2017年版 普及版 30

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る